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 まちのデザインとは

 まちのデザインを行う上で、知っていてほしい基礎的な知識を「都市デザインの進め方」という文献の中からご紹介します。

  (出典:図解 都市デザインの進め方、佐藤滋、後藤春彦、田中滋夫、山中知彦、丸善株式会社)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

 構想−造景−編集をセットしにして進める

 都市デザインは、多くの人たちの関わりの中で長い時間をかけて達成されます。そして、そこで生み出される空間は多くの人に影響を与えます。他のデザイン領域に比べ、スケールも大きく、多くの人が関与する都市デザインはやりがいのある仕事であり、その一方、仕事は複雑にからみやすく進め方も間違いやすくなります。一人の責任で、すべてを進めることは出来ません。この点が少数のデザイナーが最後の完成まで責任をもって進めることのできる他の領域のデザインとは大きく異なっています。
都市デザインは都市空間を対象とすることから、進め方の基本となるべき固有の手順・作法があります。そのことを理解すれば、楽しく取り組むこともできるバラエティに富んだ仕事になります。各地のまちづくりに見られるように多くの人々が自らの居住の場として、それぞれが主体意識をもって参加しています。その都市空間に働きかけ、空間としての質を高めていくやりがいのあるものです。
空間の質を高めるというデザインそのものの本質は変わりませんが、都市デザインの進め方においては、商品生産などの工業デザイン、インテリア、建築デザインなどとは、自ずと異なった方法が求められる、他のデザインならば一人の頭の中でなされる作業を、対外的に明瞭にして進める必要が生ずることなどはその代表です。

着想し、ものの形をスケッチしてみます。そして実現へのプロセスを組み立ててみます。その繰り返しによってデザインは進められます。これはデザインの進め方の基本といえます。都市デザインを進める上では、対象とする空間のスケールが大きいこと、多くに人の関わりの中でデザインが実施されること、この二点からそのプロセスをより明瞭に意識する必要が生じます。
すなわち、課題を洗い出し着想する。もののかたちを丁寧に検討する。その上で、その形をつなぐ実現のプロセスを編み出す。この過程を意識的に方法化するのです。

私たちは、これを着想−造景−編集というワークスタイルとして名づけ、都市デザインを進める上での基本におきました。都市デザインで必要となる各ステップで、あるいは実際に生まれてくるひとつひとつのプロジェクトで、これをセットで作業を行うことを提言しているのです。


構想−造景−編集の関係

 

 構想

 「構想」は、着想からスタートします。対象とする都市空間について、どのような方向でまとめればよいか、その内容についての整理を行います。空間スケールが小さければ、現地での直感からスタートしてもいいですが、スケールが大きくなると、直感とあわせて地域課題を捉えなおす作業から始めなければなりません。
最初の段階では仮説でもいいです。作業を進めながら、段々と中身を煮詰めていくのです。作業を進めながら造景・編集と往復を繰り返すとしっかりと方向がまとまってきます。ここまでくると対象とする空間に働きかける背景、その結果得られるであろう成果をシナリオにまとめ、外部に示す作業となります。
構想をしっかりとまとめることによって、実現に向けて多くの異なる意見を束ねることができ、長期にわたるプロジェクトであっても、軸をぶらさずに最後まで詰めることができます。
構想とは、言い換えればコンセプトを固めることです。これは内部的にも対外的にも明瞭な形でまとめる作業なのです。

 

 造景

 空間を創る作業です。スケッチを起こすことからスタートします。構想をとりあえず空間化してみます。
絵にしてみると、構想が形にならないことも多くあります。この場合は、構想に戻ります。テーマ設定がまちがっているのかもしれません。この往復を繰り返すと、構想と空間化の間に適合するものがみえてきます。
スケッチを起こし、作図します。その結果を見て、さらに詰めます。ものの形を創ろうとすれば、誰もがやらねばならないことは、三次元のものの形を決めていくことです。しかし、実際に実行すれば分かることすが、思っているより難しいものです。人は、ものの形を面で捉えることは慣れていますが、三次元ではなかなか捉えきれません。
加えて、都市デザインのように対象が大きくなれば、感覚のみで判断できるスケールを超えています。
関与する多くの人の中には、三次元の理解に慣れない人も多くいます。プロの頭の中で形をつくり、結果のみを示すのでは、多くに人は判断もつきません。形を示し、理解を得られるまで、粘り強く展開しなければなりません。
この作業は、通常では“造形”にあたりますが、大きなスケールであることから“造景”ということにします。

 

 編集

 「編集」は、都市デザインの醍醐味のひとつです。構想から実現に至る過程は、都市デザインでは様々な形をとりえます。時には、最後の「かたち」につながりえなくとも、都市デザインは成り立ちます。
都市空間では、人々の意識を変えることによって空間を変えていくことは、有効なやり方のひとつです。「かたち」を無理に追わなくとも、デザインができるのが都市デザインなのです。
この作業の中心は、編集でなされます。構想と造景を橋渡しし、実現に至るプロセスを組み上げる作業もまた編集です。複雑にからみあって構成されている都市空間の関係性を読みとり、構想をかたちに結びつけていく過程をプログラムする作業なのです。
さらに、都市の「かたち」を生み出すメカニズムをデザインする手法もあります。
「編集」は、都市デザインならではのワークスタイルといってよいでしょう。「編集」に共通する基本は、人のネットワーク、あるいは空間のネットワーク(交通、緑地、活動機能などのネットワーク)などネットワークを形づくることにあるといいえます。

 

 「都市デザインの進め方」が説明している「構想」「造景」「編集」とは、

  • 構想 = 都市デザインの構想・計画
  • 造景 = 都市デザインの設計
  • 編集 = 都市デザインの実施・実行

とおおむね同意であるとも解釈できます。すべてのデザインプロセスに共通する計画・設計・実施の流れが、都市レベルのデザインになるとデザイン要素やそれに関わる人々も多種多様になります。それはとても難しい作業ではあるけれど、だからこそ、思い描いたように作業が進められたときに帰ってくる喜びも大きいのものです。

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 デザインする対象物

 「都市デザインの進め方」では、都市のデザインにおいて、デザインする対象物を以下のように整理しています。

  (出典:図解 都市デザインの進め方、佐藤滋、後藤春彦、田中滋夫、山中知彦、丸善株式会社)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

 都市デザインと都市空間

 都市デザインは、都市空間を対象としています。その対象である都市空間は、人々が共同で使う空間であり、人が社会関係を保つために共有している空間です。その空間は人々が集まって住まうことで生まれる豊かさを直接的に支えています。
この空間に具体的に働きかけ、その質を高めるのが都市デザインです。そのことの意味は、今日、ますます大きくなっています。

車の問題がまずあります。
人が歩行によって行き来している時代には、道路がそのまま都市空間でありえました。人は屋外に出れば、様々な人と出会うことができ、そこでの社会関係を豊かにする機会を得ることができました。ゆっくりとした速度での移動は、建物と建物の間を共有空間とすることを自然に支えてきました。人とのつながりを五感で感じながら、社会空間を実感していたのです。
外部空間はほとんどを車が占拠してくると、話は変わってきます。人々が相互に関係を保つ空間は、移動のための機能空間と化してしまいます。五感をもってゆっくりと人の関係を感じる状況は許されなくなります。人とのつながりも、車により五感で感じるスケールを越え、広域化し拡散してしまいます。人は外に出るだけでは、都市空間を感じることができなくなってしまったのです。

空間構成の問題もあります。
都市空間は基本的には個別の建築物の集積を主体として成り立ちます。伝統的な建設技術のもとにあっては相互に理解できる範囲を超える建築はなされることはありませんでした。
今日では個別建築物は、固有の目的にあわせて高度に発達した方法によって設計され建設されます。住宅であるならば、そのほとんどが工務店や住宅メーカー、あるいはディベロッパーの供給するものによっています。企業の建築ともなれば、多くの専門家が動員されます。都市空間を形成する個別の空間は、この様に意識的であるか否かは別として、固有の組織体の目的に合わせてデザインがなされ生まれてきているのです。

他方、これらが集まってつくられる空間についてはどうでしょう。かつてのように、若干のコントロールのもとでその集合を調整するのでは、環境的な混乱が増大し、相互の機能も果たしえなくなります。固有の組織体のための空間形成が発達するほど、全体調整の重要度が増してきます。都市計画と呼ばれる相互調整の技術が発達してくる背景です。
人々が社会的な関係を保って、一定の空間の中に生活していこうとすれば、その空間の使い方、占有の仕方についてあらかじめ調整の方法を決めておくことはどうしても必要となります。都市計画という仕組みの基本です。
「計画」という言葉は、英語で言う‘Planning’の翻訳です。この言葉は、時空間の調整に関わる概念を示しています。経済計画といえば、近未来に対する経済に関わる多様な関与を調整する行為を指します。鉄道計画であるならば、対象とする空間に一定時間のうちに鉄道の敷設を予定することを指します。
このように計画とは、対象とする空間を抽象化して、あらかじめ調整しようとすることなのです。

近代以降、産業、経済活動が集中的に展開される場所である都市が拡大してきました。その重要性の高まりとともに、都市計画諸制度の発達がなされてきました。
都市空間における相互調整については、土地利用・交通などでの効率性の確保など機能面を重視したものとなりやすいものです。計画という概念そのものがすでに抽象性を強く含むこともあり、都市計画は機能面を中心に抽象性を高めた形での調整が主体となってきたのです。
私たちが対象とする都市空間は、今日では固有組織のための個別空間のデザインと、抽象性を高めている都市計画との分離が進んでいるのです。

 

 都市デザインの領域

 このような展開を示している都市空間を対象に、人々が改めて共有を意識できるよう、直接かつ具体的に働きかけることが都市デザインの役割となっています。
情報、交通、生産手段の飛躍的な発達によって、人々の生活は大きく変化しています。利便性を高めた都市への人口集中はますます進み、ほとんどの先進国で、都市人口は全人口の80%を超える状態となっています。世界中で都市は人々の生活の中心となっているのです。
さらに、都市の中で、人々は、社会的な空間で過ごす時間を増やし続けています。男女の役割が大きく変化し、女性が社会の中で活動する時間も場所も大幅に増加しています。
人々の集住の中で、共有を感じることのできる空間、不特定の人が自由を感じとれる空間、これが今日の都市空間です。このような空間の重要性はますます拡大しています。

抽象化することでしか捉えられない経済機能の配置であるとか、歩行を超えた速度で人を結ぶ交通機能の充実といった、より計画的・抽象的な側面を持つ空間の整備も重要ではあります。しかし、人々の社会関係がより拡大し、地域あるいは国を越えて拡散している今日、都市において人々を相互に結びつけることのできる空間、社会的な関係を展開することのできる空間、それが都市空間であるが、そこに着目し、そのあり方を組み立て、質を高めていくことは、それに増して重要なことです。

そのことによって、人々は集まって住むことにより多くの価値を見出しやすくなります。また、それぞれが持つ価値観を刺激し高めあうことにもつながります。つまり、都市を総合的な住まいの場として、より豊かにしうるのです。都市空間に私たちが積極的に働きかけることの大きな役割と意味が、ここに生まれているのです。



都市デザインの領域

 

 このように、都市デザインの領域を上の図の「相互の社会関係のための具体的な空間=都市空間形成」と位置づけてみますと、具体的な対象物としては、大きなものから小さなものまでさまざまなものが考えられます。
ただしこのサイトでは、こののちに触れる公共交通や道路など、他のデザイン領域と重複することのないよう、以下のものを都市デザインの対象物として位置づけることとします。

  • 都市の骨格を成す街区や幹線道路
  • 都市景観を形成する街並み
  • 人の都市生活や都市活動などを支える都市空間

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 デザイン活動の場

 都市デザインにおけるデザイン活動の場は、都市に関わる行政、都市のプランナー・デザイナー、デベロッパーなど、さまざまな立場により、多種多様に存在します。代表的なデザイン活動の場をいくつか挙げてみましょう。

  • 国、県、市町村の行政機関(主に都市局・建設局など)
  • 都市計画事務所
  • 計画系の建築設計事務所
  • 計画系の建設コンサルタント
  • 建築・土木分野の建設会社
  • 不動産デベロッパー
  • TMO(Town Management Organization、まちづくり株式会社)
  • まちづくり協議会

など。

デザインの対象物が都市という大きさであるため、さまざまな立場から、ハードからソフトまで、多様なかかわり方が考えられます。

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