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 公共交通のデザインとは

 公共交通のデザインを行う上で、知っていてほしい基礎的な知識を「公共交通のデザイン」「交通まちづくり」という文献の中からご紹介します。

 (出典:公共空間のデザイン、伊澤岬、彰国社)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

 車社会から多次元的交通社会へ

 加速化する現在、新幹線や高速道路の開通にも匹敵する交通改革が進められようとしています。リニアモーターカーの推進ではありません。車一辺倒の社会、いわゆるモータリゼーションの見直しです。
我が国における輸送機関における分担率を見てみると貨物で90%、旅客で70%以上を自動車が占めるとともに、その割合は年々増加する傾向にあります。これは自動車の便利さによることはいうまでもありません。しかし、車優先の交通体系は同時に大気汚染、騒音、道路振動といった「環境問題」、そして化石燃料の枯渇という「資源・エネルギー問題」、さらにはいまや日常化した交通渋滞といった「社会問題」を引き起こしています。また、先の阪神・淡路大震災のような震災が発生した場合の交通システムの再考が求められています。特に「環境」「資源・エネルギー」の視点から、これまでの車一辺倒の交通体系を見直す必要に迫られています。

最近では、自動車の排気ガスによる健康被害との因果関係をめぐる訴訟が相次ぎ、尼崎公害訴訟において地方裁判所レベルではありますが、汚染物質中の粒子状物質排出の差し止めを命じる判決がなされています。同様の裁判でも道路管理者に厳しい結果が出るものと予測されています。さらに、この判決結果を先取りするかのようなかたちで東京都は、都内を走るすべてのディーゼル車を対象に、排気ガス中に含まれる粒子状物質を取り除くためのフィルターの装置を2006年度までに義務づける方針を打ち出しています。
このようななかで、1997年の「総合物流施策大綱」の閣議決定において、地域間の物質の輸送をトラック、鉄道、河川舟運といった多次元な輸送手段の中から選択し、交通手段の特性に応じた適切な輸送役割分担が求められるべき、との報告がなされています。国土における交通システムが、モータリゼーションから多元的な交通システムの社会、いわゆるマルチモーダルな社会への変換が求められているといえます。
さらに社会は高齢者や身障者に配慮したバリアフリーの考え方から、これを一歩進めた、誰もが快適に都市施設や交通施設が利用できるようなユニバーサル・デザインへと、「福祉」の空間的概念も拡大する方向にあります。

 

 バリアフリーからユニバーサル・デザインへ

 車一辺倒の交通体系の社会から多様な交通手段を有する社会への変換の動きは、徐々に表面化し、さらに現実化してきました。階段を何度も上がり下がりすることが強いられ、乗り継ぎに不便な駅の改善が、鉄道会社間の協議による鉄道事業法の改正によってようやく義務づけられることになりました。さらに現在、法律の面から交通施設の総合的な見直しが進められようとしています。いわゆる「交通バリアフリー法」で、正式には「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」でその策定が現在進められています。これは高齢者や身体障害者が公共交通機関での移動の利便性や安全性を図るため、鉄道駅などの旅客施設や車両について、公共交通事業者によるバリアフリー化を推進するとともに、鉄道駅などの旅客施設を中心とした一定の地区において、旅客施設、周辺の道路、駅前広場などのバリアフリー化を一体的に推進する主旨の法律です。まさに車両のデザインから土木・建築・都市を総合的に捉えた視点といえます。
さらに、これまでのように高齢者や身障者に配慮し、都市・交通施設からじゃまになる障害物を取り除くという消極的な考え方となるバリアフリーの考え方ではなく、子どもや妊産婦、高齢者予備軍となるあらゆる人々に対しても快適な環境としてのユニバーサル・デザインという、さらに一歩進んだ視点に立って、都市施設や交通施設の再構築が求められています。また都市施設に加えて、観光地におけるバリアフリー化の整備も進められようとしています。バリアフリーやこのユニバーサル・デザインの具体化は、地方公共団体が進めている福祉のまちづくり条例に見ることができます。対象とするその空間概念は、建物から建物付属の駐車場、さらには道路、公園と対象が大きく広がっています。これは、前述した多元的交通結節点における人々のスムーズな移動の必要性とも一致する視点です。
このように今後、交通空間における「福祉」についての課題はますます大きくなるでしょう。

 

 この文献が出版された時代から10年以上が経過した現代では、2005年に国から「ユニバーサルデザイン政策大綱」が示され、2006年には「交通バリアフリー法」と「ハートビル法(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)」が統合されたバリアフリー新法が制定されるなど、公共交通への福祉の視点はより強化されています。

 また、近年では交通とまちづくりを一体的にとらえる「交通まちづくり」という考え方も提唱され、実践されています。「交通まちづくり」という文献では、このように述べられています。 

(出典:交通まちづくり、交通まちづくり研究会、社団法人交通工学研究会)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

 交通まちづくりの基礎知識

@ 交通まちづくりとは

  私たちは、目先の問題への対応に追われがちな交通計画の現状に対して、生活の質の改善や街の活性化など、「まちづくりの目標に貢献する交通計画」への転換の必要性と有用性を主張します。
「交通まちづくり」は、この転換を促進するための新しい概念であり、ここでは、

「まちづくりの目標に貢献する交通計画を、計画立案し、施設展開し、点検・評価し、見直し・改善して、繰り返し実践していくプロセス」

と定義します。
中心市街地の衰退、公共交通企業の劣化、社会的排除といった地域の問題を解決するシナリオを描き出すために、政策目標貢献型の交通計画は必須です。その立案と実施なくしては、地域再生への道筋はみつけられません。


「交通まちづくり」のプロセス

  札幌都心、松山市、金沢市、豊中市、名古屋市、豊田市など、目標貢献型の交通計画を立案し、その実現に向けて動き出す自治体は増えつつあります。RACDAを筆頭に多くの市民団体がLRTやバスの新設や改善を目指して活動し、四日市市、豊田市、京都市醍醐などでは市民参加型のコミュニティバスが運営されています。
ここでは、まず、交通まちづくりの特徴を理解するために、従来の交通計画とは何がちがうのか、そして、何が期待できるのか、の二点について、簡潔に説明します。

 

A 交通まちづくりの特徴

 「交通まちづくり」は、交通計画の新しい潮流であり、従来の交通計画にはない特徴があります。ここでは、特に、目標のとり方、プレイヤー、プロセスの三点について、説明します。

■目標のとり方
過去、予想を上回る勢いで進むモータリゼーション、増大しつづける交通需要に直面しながら、それらを追いかけるように道路整備や駐車場づくりを進めてきました。この目的は、交通渋滞や交通事故を生む、交通需要と交通供給のアンバランスを解消することにあります。そして、その背後には、「より遠く、より速く」移動すること、「モビリティやアクセシビリティを高めて経済成長を支えること」が望ましいとの共通認識がありました。
この共通認識に疑問を投げかけたのは、当初は、騒音、振動といった公害問題であり、沿道対策などで対処したが、大気汚染や地球温暖化、あるいは社会的排除など、クルマ依存社会の問題点が認識されるに至り、異なる考え方が台頭するようになりました。具体的には、「望ましい交通戦略とは、需要を満たすだけではなく、環境等のインパクトが許容範囲におさまり、財政的に実現可能、あるいは合意を取れるという意味で実現可能な戦略である」との考え方です。このパラダイムシフトは、政策目標として、経済活動の支援だけでなく、環境問題の緩和、ならびに社会的問題の緩和を取り上げて、それらをバランスよく達成する交通戦略を策定する必要に結びつく、実際に、持続可能なモビリティを求める中で、経済(Economy)、環境(Environment)、社会(Society)の3Eの重要性は広く指示されています。


持続可能なモビリティと政策目標(3E)

■プレイヤー
全国各地で、「暮らしよく働きやすい都市や地域をつくろう・なおそう・まもろうとする、住民たちの自らのまちづくり活動」が行われています。
「人口構造や生活環境の変化が明確な姿をもって生活者の身のまわりの問題として現れてくるようになり、それに対応してこれまでとは異なる発想や価値観で都市・地域づくりを行なわなければなりません。そしてそれは従来の行政任せの仕事ではなく、その地域に関わる自分たちの責務だ」と気づく人々が増大しています。
都市の拡大と所得の増加を伴うクルマ社会への以降は、中心市街地の衰退や高齢者の移動困難問題を伴いつつ、都市の快適な暮らしに影をおとしつつあります。「このままでは、わが街に未来はない」という危機感が、ぼんやりとではあるが、確かに存在します。
インターネットの普及によって、世界の都市の様子が時々刻々と伝わるようになり、現地を訪れて実際に体験する人々が増加するなど、専門家だけではなく市民の持つ情報量が大きく増大しています。その結果として、海外の都市で可能なことが「なぜ、わが街でできないのか」という素朴な疑問と、「やれば出来るに違いない」という信念が広がりをみせ、「交通まちづくり」を担う人々を突き動かしています。行政担当者が、出来ない理由を数え上げている間に、一歩前に踏み出せることは、市民の特権であり、失敗にめげずに繰り返し進んでいれば、功を奏する場合も多くあります。
市民は要求するばかりであるという否定的意見は、市民と行政の対立関係に根ざしたものと考えられますが、この点に関しては、「必要な情報が与えられず、サービス水準の変動が住民負担となって跳ね返らないシステムでは、住民が要求型になるのは当たり前であった」と指摘があり、新しい「協治」システムへの変革が必要といわれています。


交通計画策定時における専門家の役割の変化

 このように、市民参加の強化が議論される時代においては、交通政策の意思決定者として、行政のみならず、市民あるいは市民団体を想定した情報提供が求められるようになります。交通計画技術者は、市民を含む意思決定主体に、科学的客観的情報を如何に分かりやすく提供することができるのか、新たなニーズを把握しつつ、取り組んでいく必要があります。
また、市民には、行政サービスの「顧客」としての顔もあります。顧客という視点からは、行政サービスの受益と負担の関係の問題や、サービス提供に際しての効率性の確保、成果に対する評価の問題、さらには民営化やNPOによるサービス提供体制などの経営的課題が焦点になります。

■プロセス
「交通まちづくり」の実践においては、まちづくりの目標に貢献するために、「交通計画の基本プロセス」を遵守すべきです。具体的には、目標と指標の設定、現状と改善機会の把握、代替的な交通戦略の立案と比較、選定した戦略の実行、そして、モニタリングのプロセスを、参加を伴いながら繰り返し行なうことが重要です。
このような考え方は、戦略的アプローチ(the Strategic Choice Approach)とも呼ばれる、比較的知られたものです。不確実性を避けることの出来ない長期計画においては、「固定した将来像を持つ完璧な計画案」は、1970年代には現実的ではないと批判され、将来像と計画内容を繰り返し見直しながら進める戦略的アプローチへの変更が進んでいます。わが国においては、この普及が遅れており、政策目標に対応した戦略の決定を透明性の高いプロセスによって行うプロセスを繰り返す方法を、展開すべき状況にあります。
このプロセスの特徴は、ひとつには、計画案の策定のみでなく、実施までを含めた計画プロセスを重視することにあります。PlanからPlanningへの移行が、必要な時代になったことを反映したものと理解できます。また、もうひとつの特徴は、経営分野におけるManagementの発想であり、計画をし、実施し、見直すという計画プロセスの遂行によってはじめて、政策目標の達成が可能になるというものです。これは、経営分野における、計画・実施・評価(PDS;Plan-Do-See)や計画・実施・評価・見直し(PDCA;Plan-Do-Check-Action)サイクルの考え方を計画分野に適用する流れと一致するもので、ローリングによる見直しを重視したものとなっています。

 

 成功する交通まちづくり

@交通まちづくりの問題整理

 地域において景観的に優れた場所や、文化的魅力のある空間、歴史的な商業空間は、時間の経過とともに都市の中で集積してきました。しかし、形成されてきた集積のある「場」は、単にそこに在るだけでは存在を維持することは難しく、集積が失われる場合が散見されます。こうした「場」を一旦喪失してしまった都市が、都市間競争を生き抜くことは困難です。このため都市における「場」の維持・再生を促す諸施策を講じる事がまちづくりの基本となります。
「場」の再生と活性化に主眼を置いたまちづくりでは、NPOや都市住民によるまちおこし運動などを通じて活性化するとともに、「都市再生プロジェクト」などにより、交通条件の悪化する都心の交通ネットワークを再整備することで立て直す必要があります。都市における「場」と、それらの集積と偏在に関連して生成される「移動−活動パターン」は、交通ネットワークの整備によって大きく変化するため、まちづくりを考える上で都心における人の移動と活動を活性化させようとすれば、「交通」はまず最初に考えるべき問題であるといえます。

松山市の事例で考えてみましょう。松山市では環状線周辺の商業施設立地が進んだ結果、中心市街地の衰退が深刻となっています。平成15年度の大街道−銀天街エリアの歩行者数は2年前に比べ約25%落ち込んでいます。交通ネットワーク上の優位性がある環状線周辺へ商業集積が進むことで、アクセシビリティの低い中心市街地の地盤沈下が進んでいます。都市が郊外へと発展を続けていく際、開発そのものは容易となりますが、郊外部の自然環境が奪われるなどの問題も多くあります。現状の延長線上ではない、人々が集まる「場」を都心に集約させ、移動エネルギーの省力化を目指したコンパクトシティのような方向転換型のまちづくりに対する期待は大きいものです。
伊豆は観光地ですが都心からのアクセス条件が良くありません。このような観光を主たる産業とする地域では、都心から遠いことが非日常という観光地としての魅力度を高めている反面、交通情報が少なく都内住民からみれば旅行計画をたてることが難しいというイメージが固定しやすくなります。観光地としての交流圏人口の確保のためには、いかにして観光地の情報と交通アクセス情報をセットにして観光客に情報配信するといったITS(Intelligent Transport Systems)を活用したまちおこしの必要があるでしょう。
札幌のような、地域ブロックを代表する100万人以上の都市では、多様な移動−活動パターンを支える交通ネットワーク整備と、都心の魅力を高めるための歩行者空間の確保などが欠かせない都市戦略となります。既にある集積の魅力度をさらに高めるためのハード施策とソフト施策の一体的な導入が求められます。またこうした地域ではまちづくりの合意形成のために様々なプレイヤーが存在しており、社会実験やワークショップといった、交通まちづくりの進め方そのものも重要となります。

このように交通まちづくりといっても、その手法や進め方を一概に括ることは困難であり、都市の集積と交通ネットワークのパターンに対応したアプローチを採用する必要があります。欧州のストラスブールのように都市規模は小さくても中心地に歴史的な集積がある魅力的な小都市、米国のナッシュビルに代表される米国の都市のように中心の集積はほどほどですが郊外に大きな面的整備がなされている街、集積が薄く散らばっている街では、それぞれごとに、必要な交通インフラ、目指すべき都市像は異なります。
街の規模と集積パターンを念頭に、その町らしさを探し出す必要があります。同じ都市規模であっても、企業城下町や観光都市、総合中核都市では重視すべき戦略が大きく異なる。街区単位で構成される魅力的な「場」や就業地などの様々な「場」同士をどのような交通ネットワークで結びつけていくのか、場そのものに個性があると同様に、ネットワークのつなぎ方や結節点、道路空間の再配分そのものにも、住民の暮らしぶりが反映された都市の個性が存在すべきです。交通まちづくりによって変化するのは街に住む人の暮らしぶりです。街に住む人の暮らしぶりの問題と個性を想定した上で、魅力的な交通まちづくりの必要性が今高まっています。問題解決を行った上で、新たな価値を創造するために、街のイメージを徹底的に分析し、街区ごとに関連し合う問題を分類した上で交通まちづくりに挑まなければなりません。


都市のパターンとネットワーク

 

A交通まちづくりのポイント

 ここで取り扱う交通まちづくりでは「都心の交通計画」に焦点が当てられます。従来から行なわれてきているパーソントリップ調査の対象が都市圏全体の総合交通計画であったのに比べると、計画のスケールがより詳細で狭域に置ける計画に焦点が当てられている点に特徴があります。都心や観光地に来る人が、一体どこからどういう交通機関を使って、どこで乗り換え、どこに車を止め、何時間くらい滞在し、何をして遊び、何をどこで買い、どこで食事をして、何を感じて帰って行くのかを吟味した上で、よりよい魅力的な都心の交通まちづくりを推進する必要があります。

市民の価値観やライフスタイルは社会の成熟とともに大きく変化し多様化・多元化しています。高度経済成長時代に十人一色といわれた個人のライフスタイルは、80年代十人十色となり、90年代後半には一人十色になったといわれます。動物化しているといわれる市民の消費行動と相まって、ディベロッパーの資本投資に見合う減価償却を目指す短視眼的な都市開発が進められており、魅力的な郊外型ショッピングセンターが展開され大規模な集客に成功しています。一方、旧態然とした交通機能のみに特化した面白みのない駅前広場や、使う人の少ない公園、魅力のない街路や、重厚で趣きのある町並みの解体、車優先の全国一律の道路、著しい交通渋滞などを理由として、既存の都心の地盤沈下は著しいものです。こうした問題を解決するためにミクロレベルの実践的な都心交通計画の枠組みが求められています。
このように、伝統的な公共空間のあり方が大きく変わろうとしている中、都心交通計画が交通まちづくりの中で果たすべき役割は大きいものです。 以下に交通まちづくりのポイントを整理します。

@ 集中的な投資によるその町に応じた公共空間の再生
A 多様なプレイヤーに対応した合意形成手法の採用
B 都心の問題把握と目標設定のための定量調査の実施
C 交通まちづくりの多様な評価指標と目標の設定
D 実践的で修正可能な計画実行方法の確立

 財政逼迫の背景の下、都市への選択的社会資本投資が求められています。公共インフラ整備を公平かつ均質に進めることは困難になってきており、都心活性化のための課題を正確に捉え、都心における問題が解決されたか否かを検証する手法の採用が必要不可欠です。また、政策によって問題解決を図り、新たな価値を創造するためには、従来のような縦割りの委員会方式を前提にまちづくりを進めるのではなく、様々なプレイヤーを対象とした新たな計画実行のプロセスが求められているといえます。
このような交通まちづくりを進めていく上で、経営分野におけるPDCAの概念の導入が重要となります。従来の都市交通計画ではプランづくりが重視されてきましたが、長期計画において経済成長などのフレームが大きく変化することなどに起因して、立案されたプランどおりに政策が実施されるケースは少ないものでした。そこで今重要なのはCheckとActionすなわち、計画実行の評価と改善プロセスに焦点を当てることでしょう。定量的な指標で評価可能な多様な評価指標の設定により、交通まちづくりの継続的な推進が初めて可能になると考えます。またPDCAのプロセスをより細分化し、問題の発見、公共的問題の選択、問題解決手法の選択、組織間調整、政策決定、合意形成、実行、評価、フィードバックなどについて、それぞれ問題をより詳細に把握し、分析することで、実行力のある新たな交通まちづくりが可能となります。

 

Bプレイヤーの見直しと協同作業としての交通まちづくり

 交通まちづくりでは従来の縦割り組織のみによる社会資本整備の進め方ではうまくいきません。問題解決型の社会資本整備では行政主導でうまくいっていた作業も、目標設定そのものが複雑化する中で、市民そのものが参加しながら目標を設定していく必要性が高まっています。ボトムアップ型の住民参加がまちづくりでは求められているといえるでしょう。しかし一方で正しい知識に裏打ちされた明確なリーダーシップも求められており、その遂行は一筋縄ではいきません。
ここで、交通まちづくりのプレイヤーを整理してみましょう。古くから存在する自治会などの地縁方住民組織との関係がややマンネリ化する中、消費者団体や国際交流団体などの分野・領域ごとの集団が縦割りに街づくりに関わってきました。また地域に存在する大企業などもまちづくりに大きな関心をもってきました。行政や大学は実務知と専門知を有しており、これらのプレイヤーがまちづくり関わってきたといえましょう。

2004年4月に地方分権一括法が施行され、分権化が加速する中、地域における自律的な優れた意思決定主体の存在が必要不可欠といわれています。まちづくりに関する多くの活動は使命志向と営利志向の双方を持っていますが、ボランティアという活動が活発化するなか、NPO法の成立により、様々なNPOが地域に生まれつつあります。活発な住民活動は交通まちづくりに必要不可欠です。これらのプレイヤーが一体的にまちづくりに参加していくことが求められています。交通まちづくりにおいては、従来のトップダウン型から、ボトムアップ型の地域知を有する住民やNPOとの協同作業が重要となります。


交通まちづくりのプレイヤーとその役割

 

C求められる交通まちづくりの理論的手法

 1日10万人の客が来るショッピングセンターは町そのものです。POSによりIT化され、カメラによって客の出足の分析がなされ、ポイントカードで顧客の購買履歴が分析され、インセンティブがコントロールされる。GoogleとAmazonが一体化したような街は、実空間上に既に存在しているといえます。
このような街の出現に対して、旧来からのまちづくりを進めていては、中心市街地の相対的な魅力低下に歯止めはかかりません。どのような人が街を訪れ、どんな属性の人がどの通りを通過し、どのくらいの滞在し、何を買い、どのようなイメージを持って、街を後にするのか、一年のうちの平均的な一日を対象として、平均的な交通目的を持った人のトリップを大雑把なスケールに集約して考える伝統的な都市交通計画の問題点が浮かび上がってきます。こうした街を訪れる人の詳細な行動を把握できなければ、街は虫食い的に開発され、消費されていくのは明らかです。

議論を集約させ、目標をはっきりさせることが様々な都市交通事業を展開していく上で必要不可欠です。あるスケールに集約させなければ計画を立てることすらできません。通常のパーソントリップ調査データを用いた都市交通計画のスケールは数10平方キロメートル程度の比較的大きなゾーンメッシュ上の行動を集約させて考えます。しかしながら先に述べたようなミクロスケールの地域核創出のためには、対象エリアにおける多様で多次元的な移動−活動パターンのより詳細なスケールでの正確な把握が前提となります。政策課題に合致した適切な計画スケールの選択が重要です。例えば商業地域での人のニーズに応じたマーケティング情報を引き出すためには、数平方キロの大きさのゾーンではなく、より詳細な中心市街地を訪れた回遊客が認識するイメージマップ上のランドマークやディスクリクトすることが適切です。

都市空間のもつ意味やイメージは、人すなわち主体によって大きな差が生じます。主体によって、都市空間の中における行動内容・行動時間が大きく異なるためです。実際の回遊行動を通じて、認識している都市空間そのもののイメージは変化し、新たな活動は促されます。こうした再帰的行動は個人の内面的な空間知識の量と回遊行動に対する認知的関与の程度に依存します。多くの回遊行動を引き出す魅力ある都市空間をデザインするためには、プローブパーソン技術などを活用し、こうした意識構造と回遊行動を定量的に分析していく必要性が高まっています。
従来の都市交通計画における解析手法は道路建設や公共交通そのものを取り扱うことに主眼が置かれてきました。交通量の総計とその結果計算される所要時間が、道路計画や交通計画を行うための基礎であり、費用便益分析を行う上で必要であったためです。これに対して地域における核形成では、量としての交通量ではなく都市における人の動きそのものに着目し、立ち寄る施設、よく利用するバス、個別施設における滞在時間と、これらの項目の関連性についてより詳細な分析フレームワークが求められるでしょう。

 「まちづくり」という視点を持った交通の考え方は、公共交通による人の移動がまちづくりの基幹となることを思えば、実に理にかなった考え方であると言えるでしょう。言い換えれば、大きな観点からまちづくりを考える中の一つとして公共交通を捉えることで、未来の公共交通のあり方が明確に見えてくる、ということかもしれません。

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 デザインする対象物

 公共交通のデザインにおいて、デザインする対象物を整理すると、以下のようになります。
また、これらの輸送機関の交通結節点となる駅舎や駅前広場、ターミナル、空港なども対象物となることがあります。さらに、都市の基幹となる公共交通システムの構築や交通需要マネジメントなどの最上流側の計画についても、デザインする対象となる場合もあります。

(出典:写真はウィキペディア、文章はウィキペディアをもとに必要に応じて加筆)

大分類 小分類 公共交通の概要
鉄道・軌道

鉄道

等間隔に設置された2本の鉄製のレール(軌条)を案内路とし、鉄製の車輪を有する車両がその鉄製レール上を走行する輸送機関。もっとも一般的で身近な公共交通のひとつ。

地下鉄

路線の大部分が地下空間に存在する鉄道。主に政令指定都市規模の大都市に設置される。

モノレール

1本の軌条により進路を誘導されて走る軌道系交通機関。代表的な方式として、車輌を吊るように上にレールがある形態の懸垂式(けんすいしき)と、車両の下にレールがある形態の跨座式(こざしき)がある。

路面電車

主に道路上に敷設された軌道(併用軌道)を用いる「路面鉄道」を走行する電車。低床式車両や軽量級の輸送運航を行うライトレール交通(Light rail transit, LRT)や次世代型路面電車システムなどが、近年見直されている。

新交通システム

中程度の都市圏輸送を想定した「日本において新式と見なされる」都市公共旅客交通機関。具体例として、モノレール、HSST(High Speed Surface Transport、磁気浮上式鉄道)、ガイドウェイバス(ガイドウェイを用いる形態のバス)、AGT(Automated Guideway Transit、自動案内軌条式旅客交通システム)など。

トロリーバス

道路上に張られた架線から取った電気を動力として走るバス。

ロープウェイ

空中を渡したロープに吊り下げた輸送用機器に人や貨物を乗せ、輸送を行う交通機関。

ケーブルカー

山岳の急斜面などを、鋼索(ケーブル)が繋がれた車両を巻上機等で巻き上げて運転する鉄道。

自動車

路線バス

あらかじめ設定された経路を定期的に運行するバス。乗合バスともいう。もっとも一般的で身近な公共交通のひとつ。

コミュニティバス

地域住民の移動手段を確保するために、自治体などが運行するバス。市街地で公共交通サービスを提供するもののほか、市街地内の主要施設や観光拠点等を循環する路線などさまざまな種類のものがある。

高速バス

主に高速道路を通行する路線バス。一般的には、距離が数十から数百キロの都市間輸送、ないしは都市と観光地を結ぶものの中で、高速道路を利用するものを指す。

乗合タクシー

10人以下の人数を運ぶ営業用自動車を利用した乗合自動車。主に深夜の別の交通機関がない地域や、過疎地など路線バスの機能が充分に発揮できない場所などで、運行されている。使用されている車種は、乗車定員9人のジャンボタクシーを使う場合が多い。しかし、利用者数が極端に少ない場合は、乗車定員5〜6人の通常のセダン型のタクシーを使うこともある。

航空路線

旅客機

主に旅客を輸送するために製作された民間用飛行機(民間機)。

船舶

フェリー

旅客や貨物を鉄道車両や自動車ごと運搬できるようにした船舶。カーフェリー (Car ferry)、自動車渡船、自動車航送船などとも呼ぶ。

旅客船

旅客輸送のみが行える船舶。客船ともいう。高速船、クルーズ客船、レストラン船、遊覧船などがある。

渡し船

港湾・河川・湖沼などで両岸を往復して客や荷物を運ぶ船及び航路。渡船(とせん)ともいう。

その他

デュアル・モード・ビークル

デュアル・モード・ビークル(Dual Mode Vehicle , DMV)とは、列車が走るための軌道と自動車が走るための道路の双方を走ることができる車両。水陸両用の車両などもある。


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 デザイン活動の場

 公共交通のデザインにおけるデザイン活動の場は、交通に関わる行政、交通計画者、プロダクト・建築デザイナーなどが中心となります。代表的なデザイン活動の場をいくつか挙げてみましょう。

  • 国、県、市町村の行政機関(主に交通局など)
  • 交通計画事務所
  • 交通系の建設コンサルタント
  • 交通系のプロダクトデザイン事務所
  • 交通系の建築設計事務所
  • 電鉄会社・バス会社

など。

公共交通のデザインは、計画したものが形になるまでに、非常に長い時間と根気がかかるたいへんな作業です。 さまざまな職能の人々が、さまざまな立場で協働していくことも少なくありません。その分、デザインが実現した際の喜びも、ひときわな大きなものかもしれませんね。

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