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 環境デザインが求められる社会的背景

 なぜ、世の中に環境デザインが必要なのでしょうか。デザインという広い概念での、それらの必要性についての考え方をいくつかの文献「なぜデザインが必要なのか」「世界を変えるデザイン」よりご紹介します。

(出典:なぜデザインが必要なのか,エレン・ラプトン他,英治出版)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

 Why Design Now? なぜ今デザインなのか? この問いへの答えとして、世界のデザイナーたちは製品を送り出し、試作品を作り、提案を行い、ビルを建設し、景観を設計し、メッセージを発し、社会と環境のさまざまな問題に取り組んでいます。どうすれば世界にクリーンなエネルギーを供給できるか。人と物を安全に効率よく運べるか。どうすれば地域社会が安全で持続可能な環境の中で暮らせるようになるか。原料を取って廃棄物を捨てるという開放系を閉鎖系に転じられるか。どうすれば世界中の人々が富を分かち合い、生み出せるようになるか。医療技術の革新を通して世界中の人々の生活の質を高められるか。どうすれば効率よく創造的にアイデアを伝えられるか。どうすれば最小限の資源しか使わないシンプルな形に美を見出せるか。 − 総体としてみれば、より健康に、より豊かに、より快適に暮らし、同時に、人と人の住む地球の生態系とが調和を取り戻すこと。デザイナーはそれを模索しています。

デザインの工夫はまた個人と社会の健康に貢献します。意識によって制御できる義肢の開発から、農村住民に医療を届ける新たな方法の考案まで、デザイナーは、貧富や老若を問わず、健常者も障害者も、すべての人の体と心の健康の向上に取り組みます。
新しい発想も、コミュニケーションの手立てがなくては広がりません。スマートフォン、電子書籍リーダー、ソーシャルネットワークの出現で、情報の利用・発信の方法が変わりつつあります。デザイナーは、複雑なデータを視覚化して安全、平等、環境をめぐる緊急のメッセージを届け、世界の問題に対する理解の深まりに貢献しています。

 

(出典:世界を変えるデザイン,シンシア・スミス,英治出版)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

 特別に魅力的というわけではなく、機能も限られていることが多く、価格は非常に安い。だが、そんなデザインが人間の生活を変え、時には命を救う力さえ秘めているのです。それは一般にデザインと考えられているものとは程遠い。デザイン誌やデザイン学会で取り上げられたり、美術展に展示されたりすることは、ほとんどないでしょう。でも私たちの願いは、そうした現実が徐々に変わり、人々が「もう一つの」デザインに気づき、参加する機運が高まっていくことです。

 一般に「デザイン」という言葉の定義は、一つ物やコンセプトがいかにして三つの属性のバランスを取るかということを意味しています。三つの属性とは美的感覚、機能、そしてコストです。
でもデザインという言葉には、「意識的な問題解決」という別の定義があります。本書に登場する世界各地の多くのデザイナーたちにとっての方法論は、ここに最もよく表されています。彼らは、人間としての基本的なニーズさえ満たされない人たちの苦しみを軽減するためにデザインを役立てる「社会起業家」なのです。
彼らはこう考えています。ユーザーの手に入る資源・資材や道具、彼らの望みと差し迫ったニーズ −ユーザーがどのような生活と仕事をしているか− を理解すことが重要です。そのようにしてデザインされたモノやシステムは、シンプルかつ機能的で、オープンソースになりえます。それは使う人々に力を与えます。人々を自立させ、起業家へと変貌させます。

 

 これらの書籍は、デザイン全般について述べていることですが、すべてのことがデザインの中の一つである環境デザインにも当てはまります。要約すれば、

貧富を問わず、私たちすべての生活者が生活する環境を量的・質的に向上させるための一手段として、デザインそして環境デザインが社会から求められている

と言えるのではないでしょうか。

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 現代におけるニーズ

 環境デザインに対する現代におけるニーズは、さまざまなところに存在します。「なぜデザインが必要なのか」では、以下のように述べています。

(出典:なぜデザインが必要なのか,エレン・ラプトン他,英治出版)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

  エネルギーは人のすべての営みに欠かせません。私たちは地球の限られた化石燃料を枯渇させ、大気を汚染し、気候変動を引き起こしています。世界中の科学者、エンジニア、デザイナーたちは、太陽、風力、波力エネルギーの制御方法を研究し、またエネルギーの利用効率を高め、さらに進んでエネルギーの自給自足や余剰エネルギーの生産までも実現する新製品・新システムを開発しています。

  自由に移動したいという人間の欲求が、網の目のように結ばれた世界を作り上げてきました。時間と距離は縮まりましたが、環境には大きな負荷がかかりました。なおかつ街を抜け、大陸を越えて移動できるようにするには、折りたたみ自転車、オンデマンド電動自転車、自家発電電車から、都市の機能をめぐる新たな概念に至るまで、新たなデザインのソリューションが必要です。

  建築はコミュニティを取り巻く環境をつくります。体がそこにあるだけでなく心も刺激を受け、また社会生活の場ともなります。先進国では都市圏が無秩序に拡大を続け、発展途上地域では都市の過密化が進んでいます。建築家は、地元の素材を活かし、家のすぐ近くだけで調和のとれたエネルギー効率のよい生活ができるよう、多目的住宅開発を行い、屋上ビレッジや都市農場を作り出しています。

  製品も建物も素材からできています。化学者、エンジニア、デザイナーは、石油を原料としない生分解性ビニールから、最低限のエネルギーで生産されてキノコのように暗闇で成長する発砲断熱材に至るまで、ありとあらゆるものを開発している。新しい情報システムの発達で、消費者にとっては、素材がリサイクル原料や無害な物質、すぐに再生可能な農産品から作られているといった、クリーンな製品が見つけやすくなっています。

 豊かさとは、ただ命をつなぐだけでない、物質的に不自由のない状態です。食糧が足りない、衛生状態が悪い、危険がある、悪天候にさらされるといった状況では、社会生活と精神生活を享受できません。自分の周りの問題への解決も編み出せません。地域社会が手持ちの資源を生かして富を生み出し、世界経済に参画できること。今日、進歩的なデザイナーや起業家は、そいした豊かさの原動力を創出しています。

 

 エネルギー、交通、建築、工業製品、人の生活の場など、さまざまな分野のモノやコトにおいて、デザインに対するニーズは存在し、さまざまなデザイン提案がなされています。そこにあるニーズとは、顕在的なものばかりでなく、まだ表面には表れていない、あるいはそのようなニーズが思い描けていない潜在的なニーズをも含んでいます。
先に述べた、このサイトで定義した9つの環境デザインの対象物である、@都市、A公共交通、B道、C水辺、D橋、E広場・公園・ランドスケープ、F建築・スペース・インテリア、G住民参加、のそれぞれのデザイン領域についても、 人が今以上に量的・質的に豊かになりたい、人間らしく、自分らしく暮らしたいという欲求がある限り、デザインに対するニーズは数限りなく存在すると言えるのではないでしょうか。

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 環境デザインに取り組むメリット

 環境デザインに取り組むメリットは、製品デザインによるヒット商品が生み出す経済効果のような、わかりやすいメリットとして現れることはありません。その理由としては、

  • 水辺、道路、公園など、公共的でかつ非営利的な空間や施設が多いこと
  • デザインの対象物の規模が大きく、一品生産であること

などが挙げられます。
そのために、メリットが分かりづらく、短期的での費用対効果が表れにくい環境デザインへの取り組みが後回しにされることも少なくありません。

 定性的なメリットとしては、

  • 形態と機能の調和により、人々が暮らしやすく利便性の高い環境を創出できること
  • その土地らしい良好な環境が、ひいてはその土地の歴史・文化となりうること
  • 美しい環境に住むことで、そこで生活する人々の心身が豊かになること

などが挙げられますが、実際の現場では、これらの定性的メリットを認識しながらも、逼迫する経済的要因などから環境デザインへの取り組みが活発でないというのが冷静に見た現状でしょう。

また、これまでの定量的な研究では、環境デザインに取り組むことで街並みなどの景観が良くなり、不動産価値が向上するなどの経済的なメリットが現れることも報告されています。それらのメリットの定量化は、「景観が向上することに対していくらまでなら支払えるか」を一般の人々または住民にアンケート調査し、その結果をもとに不動産価値を算定する方法などがとられているため、簡単にどの事例においても定量化できるわけではありません。また、新たに環境デザインを施そうとすることで、具体的にこれだけの不動産価値が上がることが見込まれるだろうと、そのメリットを明確に示すことも困難であるというのが現状です。

 私たちは、環境デザインをより一層世の中に普及させるためにも、環境デザインのクライアントとなる人々に対して、環境デザインに取り組みことで現出する定性的・定量的メリットを、明確かつ魅力的に提示するための努力と研究が必要だと言えるでしょう。

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